蜜蜂のドレッサー

ゲランの香水や化粧品、美術館に行った記録やカフェ情報のブログです

香水の書籍紹介:フランス香水の旅

香水の書籍を紹介するシリーズ。

3冊目はNKK出版から1993年に出ている、『フランス香水の旅〜香りを創る男たち』です。

書影はこちら↓

 

 

サブタイトルのとおり、ネ(鼻)と呼ばれる人々*1の中でも男性*2の大御所や香料の産地で働く人々のインタビューが一つの本になっています。

グラース

フランスで最も有名な香料の産地といえばグラース。本書ではグラースで収穫できる香料としてスミレ、ミモザ、オレンジ、バラ、ジャスミン、チュベローズ、ラベンダーがあげられています。想像するだけで素敵で、花たちが競うように咲き誇る土地に訪れたいと思いました。*3

グラースのチュベローズ

グラースに関する記載の中でも興味深かったのは、グラースで香料として使われるチュベローズを栽培しているのは1軒の農家だけ*4ということ。そして、収穫されたチュベローズがアンフルラージュ法(脱臭した油脂をのせたトレーに花びらを置き、芳香を油脂に移す抽出方法)で抽出されていたことでした。アンフルラージュ法といえば、パリのフラゴナール博物館で模型展示を見たことが。その記憶から、古の技法とばかり思っていたので驚きました。チュベローズは他の香料に使われている高温での抽出方法が向かないためだとか。調べると2021年発売のジャドール インフィニッシム(オードゥ パルファン、ディオール)もアンフルラージュ法で抽出されたグラースのチュベローズを使用しています。

(アンフルラージュ法の展示。手作業で並べていくことを考えると、気が遠くなりそう)

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香りを記憶する

また、創香師の学校での香りの覚え方も興味深かったです。具体的には『自分の思い出に結びつけて記憶する』という覚え方です。

自分のことで考えると、思い出の香り、というような、香りである場面が蘇ってくる香水と、その香水が持っているストーリーが出てくる香水があります。ストーリーを持っている香水も勿論好きなのですが、記憶出来る香りは自分の思い出の香りだなと思います。*5

そして、シャネルにジバンシィ、ジャン・パトウと錚々たる会社のネや工場、畑に訪れていいるのが何とも羨ましい。*6

後半には香水のコンペ、マーケティング・香水瓶の作成と、伝統的な香水作りから現代の大衆における香水のあり方も書かれていて、こちらも中々参考になりました。

1993年出版だからこそ知れることがあって、面白かったです。出版年の考え方が変わりそうです。

こちらの記事でも香水の書籍紹介をしています↓

 

honeybee-dresser.hatenablog.com

 

*1:フランスで、一流の調香師はネと呼ばれる

*2:最近は女性調香師も増えましたが、出版された1993年の調香師の世界は男性が多かったのかなと感じました。ニッチフレグランスで有名なニコライ(Nicolai)も、創業者の女性調香師パトリシアドニコライもゲラン一族の方ですが、自身でブランドを立ち上げていますよね...。

*3:YouTube等で調べると、中々いち観光客が花を楽しんでいる様子はなく、気軽に訪れることが出来そうなのは国際香水博物館(MIP)の庭園のようでした。

*4:その後、グラースでチュベローズの栽培技法は絶えてしまったのだろうか?と気になっていたら、現在は生産者が増えているとの記事を見つけました

*5:思い出の香りが変わってしまった時も気がつくのが早かったです

*6:特にジャン・パトウはLVMHに買収され、香水は出さなくなっていったので、貴重な記録だなと。LVMHは香水ブランドを沢山持っていて、名香揃いのジャン・パトウはヒットしそうですがなぜか香水ラインは廃止されてしまいました。